気の生理作用

           

一番始めの項目「中医鍼灸とは」「気とは活力、内臓を働かす力」と書きましたが、「気」についてもう少し詳しく書いてみたいと思います。

        

中医学で使われる「気・血・水」は目に見えるものではありませんし、科学的に証明されているものでもありません。しかし中医学ではしっかりした「理論」があります。

          

「気」には、栄養・推動・温煦・防御・固摂・気化の6つの作用があります。

           

栄養作用とは、食事をした物から栄養を吸収する作用です。

      

推動作用とは、臓器組織(内臓など)の活動を促進したり、血脈や経絡の流れを推進する作用です。

          

温煦作用とは、臓器組織を温めたり、体温を維持する作用です。

     

防御作用とは、体の表面を保護し、外邪(外からの邪気=寒さや暑さ)の侵入を防ぐ作用です。

           

固摂作用とは、汗や尿、出血などが出過ぎないように調節する作用です。

         

気化作用とは、足りなくなった「気」を補う為「血」を「気」に変えたり、その逆があったり、「水」を汗や尿に変えたりする作用です。

              

気の種類

      

中医学では「気」をいくつかに分けていますが、その中で代表的なものに

      

「宗気」 「営気」 「衛気」 「元気」  

              

があり、これらが人体を構成する気となります。

           

         

「宗気」とは、気の中で一番推動作用が強いもので、心拍運動や呼吸運動、経脈内での「気・血」の運行を主っています。

     

「営気」とは、 気の中で一番栄養作用が強いもので、「栄気」とも呼ばれ、経脈を通して全身を栄養し潤します。また血液の組成成分ともなります。

     

「衛気」とは、気の中で一番防御作用と温煦作用(温める力)が強いもので、その作用は体表と体内におけるものに分けられます。

体表では肌を保護して外邪(暑さや寒さ、湿気など)の侵入を防ぎ、汗孔の開閉を調節し体温を調節します。

体内では臓器を温め、その活動を活発にさせます。

         

「元気」とは「原気」 「真気」 とも呼ばれ、先天的な生命活動の原動力となるもので、成長発育や臓器の組織器官の活力を旺盛にします。 

                

各気の生成と運行

         

①宗気

    

宗気は食物(中医学でいう水穀の精微)の一部酸素(自然界の清気)によって胸中で生成されます。

             

宗気は胸中より「肺」「心」に注ぎ込み、それらの機能を推動して呼吸・発声・心拍・気血の運行などを促進します。

     

②営気

     

営気は食物(水穀の精微)の中の栄養豊富な部分から生成されます。

      

営気は血の構成成分にもなっており、生成された後、血と共に全身に運ばれ栄養作用を発揮します。

    

③衛気

   

衛気は生まれ持っている気(先天の精気)を源とし、食物(水穀の精微)の滋養を受けて生成されます。

   

衛気の循行部位は営気と異なり、営気は通路(経脈)の中を通るのに対し、衛気は通路(経脈)の外を通って体表の近くに分布するので、寒さや暑さ・湿気(外邪)から体を守ったり、皮毛を潤したり、汗孔の開閉を調節したりします。

    

④元気

    

元気は生まれ持った気(先天の精気)が化生したもので、後天的には食物(水穀の精微)によって養われ全身に運ばれます。

    

元気は臓腑や全ての組織器官の活動を推進する、生命活動の原動力となる気です。

        

血の概念および作用

                 

中医学でいう「血」は現代医学でいう血液と似ていますが、白血球や赤血球などの区別はしませんし、生成や循環のなどの考え方にも違いがあります。

     

中医学でいう「血」の作用は、全身を栄養し潤すことです。顔が赤いのも皮膚や毛髪に潤いや光沢があるのも、目などの感覚器、や運動器が円滑に動くのも、「血」の充足があってはじめてできると考えます。

      

その他に「血」は精神活動を支える栄養源にもなります。ですから「血」が欠乏すると多種の精神的な症状(不眠、忘れっぽい、不安など)が現れます。

           

血の生成

      

「血」の生成には、大きく2つの過程があります。

一つが食物(水穀の精微)から生成される過程と、もう一つが精(腎の中にある)から化生される過程です。

       

食物(水穀の精微)が「脾」に運ばれると営気が生成され、食物(水穀の精微)の水液の有益な部分からは津液が生成されます。

「脾」は食物(水穀の精微)から直接「血」を生成するほかに、営気と津液を合成して「血」を生成します。そしてこの過程で「心」の関与が加わって「血」が赤色を呈します。

      

「腎」が貯蔵している「精」は、「骨」を主り、「髄」を生みます。そして骨中の「精髄」は血液を生成します。その反対に「精」が不足すると、「血」が「精」に変化して「精」を補充します。

このことから「血」と「精」の関係は「精血同源」と呼ばれます。

       

血の運搬と貯蔵

           

「血」の運搬「心」の働きが中心となりますが、その他にも「肺・脾・肝」が関与し、全身に運ばれます。

     

「心」はポンプのように「血」を推し出して全身に巡らせますが、その過程で全ての「血」は一度「肺」に集まり、その後「肺の」作用(宣発作用)を受けてさらに推動されます。ついで「血」をスムーズに流れさせるために「肝」の作用(疏泄作用)が働きます。

「脾」の作用(統血作用)「血」を統摂する働きを持ち、「血」が循行中に必要以上に血脈から漏れ出ないようにしています。

    

事故などで血液が失われても補充できるように、ストックしておく機構があります。それは「肝」の「蔵血作用」と呼ばれ、「肝」は「血」の貯蔵を主っているだけでなく、全身の血液量も調節しています。そして肝血(肝の蔵する血)は目や筋腱・爪・子宮などの栄養に特別に関与しているため、肝血が不足すると失明や筋肉のひきつり、爪の色が悪くなるなどの症状が出てきます。

      

津液の概念および作用

     

「津液」とは、人体中の正常な水液の総称で、その中には唾液・胃液・涙・汗なども含まれます。

       

「津液」の主な作用は、”潤い”を与える事であり、関節だけでなく骨髄や臓腑・皮毛なども潤します。

      

その他にも「津液」は「血」の重要な組成成分にもなっています。

       

津液の運搬と排泄

         

「津液」は「脾」によって生成された後、「三焦」を通路として「脾・肺・腎」によって運搬され排出されます。

     

1.脾の作用

   

「脾」の主要な作用として「運化作用」があります。「運化作用」とは、食物を消化して必要な部分(水穀の精微)を得、これを吸収して全身に輸送する働きの事です。

その運化作用の中に「水液運化作用」 というものがあり、水液が停滞すると「脾」自体の作用も衰退してしまうため、「脾」は食物から有益な水液を吸収して「津液」とし、全身に輸送・散布しています。

    

その他に「脾」には「昇清作用」というものがあり、生成された「津液」を上に位置する「肺」に運び、「肺」の作用でよりいっそう全身に散布される事が促進されるように働いています。

「脾」の作用でも全身に輸送されますが、なぜこのような作用があるかといいますと、「肺」や「心」推動作用が非常に強く運搬力に優れているため、助けを貸してもらう形になっています。

イメージとしては、バケツに入った水を「脾」が台の上に乗っている「肺」に渡し(昇清作用)、「肺」が台の上(高い所)から下に投げ捨てる(全身に運搬する)感じです。

      

2.肺の作用

     

肺の主な作用には「宣発・粛降・水道通調」があります。

   

「宣発作用」とは、体内の濁気・水液・水穀の精微(食物から栄養のある部分を取った物)・衛気を、皮毛や気道に散布する事です。濁気は呼吸によって排泄され、水液は皮毛を潤したり、衛気によって汗に気化されて排泄されます。

    

「粛降作用」とは、自然界の清気(酸素)を「肺」に取り込み、肺中の異物を取り除いて清潔な状態を維持させながら、清気や「脾」から運ばれた水穀の精微と水液を下に輸送する作用の事です。

      

「水道調節作用」とは、「肺」が宣発や粛降作用を用いて「水道」の流れが滞らないように調節している作用です。ここでいう「水道」とは、「脾」から「肺」、「肺」から全身、そして「腎・膀胱」に運ばれて排泄されるまでの全通路の事を指します。

     

3.腎の作用

   

「腎」には体内で利用され汚くなった水液が運ばれてきます。「腎」はその気化作用で運ばれてきた水液のうち再利用できる「清」の部分を再吸収し(蒸騰)、不必要な濁の部分を「膀胱」に運び尿に気化して排泄しています。

     

精の概念および作用

                

「精」は、人体を構成する物質のひとつであり、人体の活動すべてを支えている根本的な物質です。「精」には「先天の精」「後天の精」との区別があります。

           

①先天の精

            

「先天の精」は、両親から受け継ぐ「生殖の精」で、「腎」に蔵されて生殖や発育を主ることから「腎精」とも呼びます。

     

両親の「先天の精」が交わって受胎すると、「先天の精」は胎児の「腎」に蓄えられて「腎精」となり、その一部は「腎気」に気化します。「腎精」と「腎気」は共同して発育を主り、子供を成人へと成長させた後、徐々に衰退して人体を老化させます。

        

青年期になると、「腎の精気」は生殖の精である「天癸」を産生します。「天癸」性器を発育させて生殖能力を高め、男子に対しては精子の産生を盛んにし、女子に対しては月経を開始させます。更年期になると「腎の精気」が衰退するため「天」が消失して、生殖能力が低下すると、月経は止まり性器は萎縮を始めます。

      

この他に「先天の精」は「衛気」や「元気」を構成して全身の機能活動を促進したり、「血」に化生してこれを補充したりします。

        

②後天の精

      

「後天の精」とは、飲食物より「脾・胃」の働きによって化生された栄養豊富な物質で、全身の組織に行き渡り、生理活動を維持するエネルギー源となっているものです。したがってこれは、水穀(食物)から生成された全ての栄養物質(営気・血・津液など)の概括といえます。

また「後天の精」の一部分は、「腎」に運ばれて貯蔵され、「腎精」に化生されます。

                

精の生成代謝過程

         

「後天の精」は消耗した場合、飲食物を摂取すればいくらでも補充できます。しかし、「先天の精」(腎精)はそうはいきません。人体は生まれ出てしまうと、もうそれ以上両親から直接「先天の精」(腎精)を受け取る事が出来ません。そこで、どこからか「腎精」を補充する必要があります。「腎精」は、「後天の精」の化生によって補充されます。

             

「腎」には両親より受け継がれた「腎精」と、「腎精」が気化してできた「腎気」があります。

この他に、両親より「先天の陰気と陽気」が継承され、「先天の陰気」「腎精」とともに「腎陰」を形成し、「先天の陽気」「腎気」とともに「腎陽」を形成します。

             

「腎気」蔵精・封蔵・気化の作用を持ち、「腎精」を貯蔵したり、「脾」より運ばれた「後天の精」を貯蔵し、「腎精」に化生する働きを主っています。

「腎陽」「温煦作用」(温める作用)に優れ、全身を温めて体温を維持したり、熱エネルギーを生み出したりします。

           

「脾」には、「脾気」とそれを温めて機能を促進させる「脾陽」があります。

「脾気」はその運化作用によって水穀(食物)より「後天の精」を化生し、「腎」に運んで「腎精」を補充しています。

「脾陽」は、「腎陽」に温煦されて、その運化作用が強められます

           

上記のように「脾」「腎」は密接関係があり、「脾」や「腎」の病症も相互に影響し合いながら発展する事が良くみられます。

飲食の失調などで、「脾気」の運化作用が減退して「後天の精」が化生できないと、「腎精」の補充も不足してくるため、しだいに「腎精」不足による病症が発生します。

反対に、先天的な障害や老化などで、「腎」の機能が低下して「腎陽」の温煦作用がうまく発揮されなくなると、「脾陽」も不足して「脾気」の機能が促進されず、しだいに消化吸収機能が減退する病症に発展することがあります。

             

神の概念および作用

            

①広義的な概念

            

「神」は、精神・感情・知覚・運動などのすべての生理活動を主宰し、それを対外に表現するものであるとされています。

人間が生命体として存在しているのは、肉体だけが存在する死者とは異なり、精神的にも充実し、肉体的にもイキイキと活動できている状態です。

中医学では、イキイキしている状態とそうでない状態を表現する際に、「有神」・「無神」という言葉を使います。

          

②狭義的な概念

         

狭義的な「神」とは、「心」が蔵して主っている「神」の事で、精神・意識・思惟活動を主るものです。

     

中医学では、明時代「脳は元神の府なり」と説いており、脳は心神の活動の発源地であることを示しています。したがって心神は脳の生理活動の概括ともいえます。

           

神の生成と運用

           

①神の生成および栄養

         

「神」は先天の精気より発せられ、生命の誕生とともに形成され、「心」に蔵されます。そして出生以後は後天の精気で絶え間なく栄養されています。したがって、「脾」や「腎」の機能低下のために「神」を養っている先天の精や後天の精が不足することによっても、精神活動が低下して不眠・健忘などの症状が現れる事があります。

その他「心」は、その「心血」によって、蔵している「神」を滋養しています。

          

②神の運用

            

「神」は精神思惟の表れですが、この精神活動は「心」によって行われ、「肝」によって調節されます。

「心」「神志を主る」作用を持ち、直接精神活動を主っています。したがって「心」の生理・病理は、神の活動やその失調と最も密接に関係しています。

       

例えば、「心気や「心血」が障害されると、しばしば精神活動の失調(不眠・多夢・健忘・狂躁)が起こり、その反対に、精神活動(神)の失調は「心」の機能に影響を与え、動悸や冷や汗などの症状を出現させます。

     

「肝」(肝気)の主る疏泄作用とは、人体各部において気が行う機能活動(気機)を促進させる作用です。この疏泄作用は精神面にも働いており、心神の活動をスムーズにして精神活動を調節します。また「肝血」は、「心血」を補充する事によって間接的に「神」を滋養します。

     

例えば、「肝気」が鬱滞したり「肝血」が不足したりすると、心神の活動や滋養が不十分となり、怒りっぽくなったり抑鬱状態に陥るなどの精神異常が現れます。